
オンブレ。Ombre。フランス語に由来し、「陰影」や「濃淡をつけた」という意味。徐々に明度が変容していく格子柄やストライプ柄などに用いられる。
広い意味で、この柄を提案しないシーズンはない。ずーーーーっと提案している。色んなブランドから、色んな色味で、色んな生地で。信じられないくらいの数を持ってもいる。チェックシャツとタンクトップと黒いパンツは、もう十分に残りの人生を過ごせるだけの数がある。常人には信じられまい。嫁はすでに諦めている。でも、まだ見たいし、欲しいし、着たい。
何がそこまで駆り立てるのか? これは自分でもよく分からない。展示会場にチェックシャツがあると、反射的に袖を通す。そして多くの場合、それは店に並ぶことになる。構成される糸の種類によって男性的な色気を孕む時も、女性的な色気を孕む時も、音楽的な要素を感じる時も、旅っぽいなと思う時も、内向きな柄だなと思う時も、着飾らない粗野な雰囲気を感じる時もある。好きなコレクションにはチェックシャツが印象的に使われていることも多い。(2017AWのVarde77とか)
今シーズンのBed jw Fordから発表されたチェックシャツも、例に漏れずお店にある。素材はレーヨン100%で、適度に厚さはあるのに、クタクタに柔らかい。コレクションテーマである「Working Class Theater」に乗っ取って、労働者が着込んだ後の柔らかさを狙ったのだそうだ。腕まくりができる袖ゴムと、労働と休息を区切る鐘のチャーム。(ちなみに、音は鳴る。)

ウェスタン型のディテール(肩の切り替えとか、スナップボタンとか)。
ネクタイは取れない。襟は取れる。

ネクタイは取れない?襟は取れる? 最初に見た時は笑っちゃった。普通、逆でしょ。
ところが、今季Bed jw Fordが描いた世界観においては、こちらが正しい。その世界に住む住人に強制的にカッコつけさせる気概も感じる。汚れる襟だけを洗える仕様(datachable collar)は服飾史にも確かに存在し、現在はタキシードの下に着るシャツに使われる仕様。それを労働者のコレクションに登場させるのは、皮肉っぽさと同時に示唆的だな、と思う。歴史的には、労働者階級が毎日シャツを洗えないから生まれた仕様で、現在はフォーマルなシャツに使われる仕様。そしてその仕様をチェックの生地に乗せて、ウェスタン型のデザインに収める。「この仕様はオレら(労働者)のもんだ」と言っていると捉えても面白いし、「フォーマルな仕様を労働者のコレクションで載せ替えた」と捉えても面白い。つまり、どっちにしても、かなり面白い。
チェックシャツラバーの僕からすると、このように思想が込められたチェックシャツは市場にあまりない。いつも雰囲気先行で売られる。カートが着てたあの雰囲気を出したくて、とか。その雰囲気が欲しかったら、古着を買う方がいい。
このチェックシャツには、古着で代替できない魅力がある。その魅力は、ウチに込められた思想だし、クタクタの柔らかい着心地でもあるし、歩くと鳴る鐘でもある。

PS. 歩くと鳴る袖口の鐘は、幼児に人気で、保育園でモテます(実体験)。
慎平さんの娘もお気に入りらしく、来シーズンも継続のディテールになります。
子どもにモテるのはいい気分です。