
Bed j.w. Ford FW25 “Alternative Elegance”
たとえば、衣替えの時節に手に取った10年という時間を共に生きた服がある。「そのコートは、あなたよりもあなたらしい」--誰かがそう言った。現在の嗜好に沿って新たにクローゼットに加わったものではない。長く愛用されたがゆえの「くたびれ」を帯びている。同じものは二つとない。持ち主の仕草や習慣が染み込んだ布地は、過ぎ去った時間を静かに内包し、新品とは遠く離れた存在となっている。しかし、その無類の柔らかさは、日々の生活の中で自然に生まれた表情を映し出す。袖を通すたびに、布地は身体の動きを覚え、作り手でさえ完全には想像することのできない「もう一つの完璧な姿」を見せ始める。もしかしたら、服作りとは、世界にふたつとない、時間だけが織りなす物語の始まりなのかもしれない。
日常は”完成”したかのように見えるかもしれません。しかし人は常に、退屈や暗澹から離れるための微かな変化を望んでいます。ほんの少しだけ違う選択への願い。山岸慎平は、立ち止まり、複雑な思考を単純な答えで書き出したいと言います。
彼の主観は、変わらず、現実的な日々の生活に基づいています。一方で、彼とブランドが志向し続ける「エレガンス」とは、ある種のファンタジーだといいます。「現実は現実で、夢想や理想とは別。両者の差異をなくすことをしているわけではない。自分の服作りは、それらが肩を寄せ合うようなこと……しかし、このことを言語化することができない。だから服を作っている。」という。デザイナーは、心も体も、現実とファンタジーを往来する。そして、2025年秋冬コレクションは、いつもの服に少しだけ違う風が吹いています。
ブランドが静かに育んできた端正なシェイプとパターンは、今季さらなる深まりを見せています。小さなベル付きのストラップで固定されるジャケットやシャツの袖元は前のシーズンから続き、「働き、生きていくこと」との密やかな対話の痕跡が漂います。芯地を抜いた布地が描く自然なヨレ、もしくは落ち感は、時間の経過を優しく受け止めた表情となって、前見頃にまで広がっていきます。
レザーやスウェードは、スウェットパンツの持つ自由な佇まいを纏い、これまで直視されることのなかったアウトドアの持つ文脈と確かな強度は、ブランドにとって新しい対話のかたちとなって布地と布地の間に調和を見出しています。着る人の手の中で、布地は少しずつ馴染んでいきます。時には、想定外の場所に皺が寄り、予期せぬ場所に布地が落ちることもあります。デザイナーを惹きつけたそうした偶然の重なりが、デザインの細部に静かに息づいてみえるでしょう。
コレクションには繊細な楽観性が潜んでいます。かつて山岸が「自分のために服を作っている」と断言していた時間は、今、「未来の自分のために」もしくは「未来で出会う人々のために」という願いへと意味を変えています。「オルタナティブエレガンスという言葉さえ、まだ未定のタイトルなのかもしれません。これらの服はどのように呼称されるのだろうか。どう表現されるのだろうかが楽しみなのです。その答えは、服と着る人との対話の中で見出されていくことでしょう」
ブランドは、世界中の誰かとともに、新しい何かを探る旅の途上にあります。複雑な思考の果てに見出されるシンプルな何か。それはこの時代が静かに求めている、もうひとつの選択です。そんな確かな予感が、ここにはあります。

「Working Class Theater」から続き物の要素もあるし、何より今回は時間に関する言及が多いのが印象的です。 受け取ってもらえればと思います。
まだ少し後の話にはなるのですが、7/19,20,21とSS26のお客様向け展示会をお店でします。
特に予約制とかではないのですが、ご来店予定の方は大体の時間を教えてくれると僕らの予定が立てやすくて助かります。 いまのところ土曜日が混み混み、日曜日が時間によって混み、月曜日が暇、くらいの感じです。
立ち上がりも来季の展示会もどうぞよろしくお願いします。