僕が初めてこのブランドと出会ったのは今から約10年前、大学2年生のことだった。
知ってからすぐ取扱店を調べて買いに行った。
その時買ったのはワッフル地のヘンリーネックのカットソーで、やけに丈が長く、何よりボタンが背中側に付いていた。
前後を間違えて着ているように見えるものだった。
スリットの入れ方や首の抜け方を観察すると、明らかにボタンが付いていない方が前で、ボタンが付いている方が後ろだと主張する作りをしていた。
決して常識的なものではないが、僕はその洋服が好きだった。
それからずっと、洋服屋さんになった後も、コレクションが発表されるのを楽しみにしていた。
それから時が経ち、僕はまんまと洋服屋さんになり、バイイングをする立場になっていた。
このブランドは、ずっとバイイングのリストに載せていた。
昨年の秋冬コレクションが発表された時に、ついに声をかけることを決めた。
10年前と変わらぬ熱量で作り続けられている、ビッとした洋服がそこにはあった。
普通は10年も経つと、ブランドは変わる。
ブランドが変わるというより、作っている人間が変わるのだろうと思う。
自分が置かれた状況や環境も変化するだろうし、時代も作り手の感情も変わる。
洋服はどこまでいっても人間が作っているので、人間が変化した時には、作るものも当然変わる。
変わらない方がおかしい。
かの洋服はその時々で姿形を変えているものの、本質的なことは10年前と全く変わっていない。どでかい幹のようなぶっとい芯があるんだと思う。
カッコつけろ、媚びるな、てめえの人生をてめえで歩け。あと、できれば守れ。
プライドも、大切に思う人も、信じていることも、死んでも守り通せ。
直接慎平さんとこういう話をしたことはないが、僕は彼らの洋服に袖を通す度に守らねば、と思う。
コレクションは続き物の要素があるので、24AWの前に24SSに関して少しだけ触れられたらと思う。
24SSの商品群の中で、バイヤーが絶対に仕入れなくてはならなかったのはシルクのツナギだった。
同素材でテーラードジャケット、スラックス、ロングコートが作られていた。
シルクを使って洋服を4型作ろうとした場合、通常であればテーラードをシングルとダブルの2品番にするかパンツをスリムとワイドの2品番にする。
ツナギは売れない。とても。そして作るのは大変だ。
商売的にも手間を考えても、ツナギは明確な意思や主張がない限り製作されない。
しかも素材はシルクだ。縫製上の手間も大変なものになる。
ツナギは歴史上、作業服としての側面が強い。
自動車整備士、塗装業者、消防士などイメージするものは皆さんもあるだろう。
その多くはブルーカラーと呼ばれるもので、しかし僕らの生活を絶対的に支えてくれる職業のものだ。
その洋服を、シルクで、パリのあの舞台で、堂々と歩かせる。
あの服は労働者への賛美だ。
薄汚れながら仕事をするものへの、絶対的な肯定。
売れるだとか売れないだとか、着る着ないを超えた、ランウェイ上で行われる表現。
僕はこのブランドがパリで歩く意味があったように思う。
24AW、続々と入荷してます。
リニューアル後の店内と一緒に、ぜひ楽しんでください。