
以下、コレクションノート。
数えることもできない短い間、目を閉じて、また開いた。
その一瞬で、何か変わったかもしれない。
ただ私は、変わらないでいてほしい私たちの生活を心に活写した。
あらゆる不安定性は、私たちそれぞれの日常の風景にまで侵食し、かつての”当たり前”を失われかねない畏怖さえも顕現しています。「しかしそれが、平凡な日々を逃さないようにしたという願いに変わるのだとも気付いたのです」と、山岸慎平は口にしました。
「たとえば」と切り出し、世界恐慌の折、人々が困難に直面する中にあっても、その無二の視点から”描くべき価値のあるもの”を描き続けたノーマン・ロックウェルのように、デザイナーの主眼から、現実の瞬間をキャプチャーしておきたいとも言い添えます。「彼の画集のどのページをめくっても、どの主題であろうと、人生における幸福の一瞬を捉える類稀な才覚と眼差しがある」。人が暮らす平凡な風景を、あたたかく捉え直し、葛藤しながら咀嚼していく。その非凡な行為が、今シーズンの服作りと重ね合っています。
2026年春夏コレクションは、これまではデザインの俎上にあがることの少なかったデジャヴ的ユニフォーム、いわゆる時代精神を吸収した汎用的な衣服と、BED j.w. FORDにおけるエレガンスの融合から芽生えていきました。同時代を生きる私たちと過去と未来の人々が共有しうる、デニム、白いシャツ、シンプルなニットなどの普遍的な「クローゼット」が、ブランドの美意識と絡み合うことでオルタナティブな姿に変容していきました。「ここで言うユニフォームとは制服ではありません。多くの人々が当たり前に身近に感じることのできるものです」
前季に続き「複雑な思考を単純に表現する」ことは、日常のささやかな発見と、ブランドが育んだ技巧的エッセンスとワードローブを反芻するところから始まっていきます。ことさら、シルエットは端正でありながら矛盾を孕んでいます。衣服の”飾り気”を取り除き、無自覚的に存在する外見的な要素を削ぎ落とすことを探求し、やがて決してデザインでは削ぎ落とすことのできないものへと辿り着きます。コレクションに散見される、自然な落ち感と、時間を留めたかのような違和感のある--だが現実に起こりうる--カーブが馴染みながら共存する形は、その象徴とも言えます。
細部に隠されたステイトメントもあります。ブランドにとってオーセンティックなジャケットやトラウザーズの布地が描く柔らかなライン、伸縮ストラップで固定され得る袖元、そしてブルゾンの内側に秘められた”私的な”ポケットなどは、単なる実用性や合理性を超え、表からは見えないところに潜むささやかな日常の幸福を意味します。
そして、何気ない瞬き(ウィンク)に、祈りが宿ると信じた。

先週、展示会へ行ってきました。 今週末はお店でお客様向けの展示会。 と言うことで感想とこのコレクションの私的な見方を。
このコレクションを楽しむために、深く知るために少々知識が必要なので前提となる知識を書きます。知っている人は読み飛ばしてください。展示会で僕が話すであろう内容をほぼ書くので、楽しみにしておきたい人も読み飛ばしてもらって構いません。
時代背景は1920〜1960年代頃までのアメリカ。1919年に第一次世界大戦がヴェルサイユ条約調印で終結、わずか10年後の1929年に世界恐慌が起こり、世界恐慌も要因の一つとなりそのまた10年後の1939年に第二次世界大戦開戦、1945年終戦。朝鮮半島が南北分割され北側をソ連が南側をアメリカが分割統治し、朝鮮戦争が起こり、そこから冷戦の時代へ向かっていく、と言うのが背景にあります。この暗く荒れていた時代に活躍したアメリカの画家、ノーマンロックウェルが人物として今回のコレクションには引用されています。彼の絵は牧歌的で明るく、ユーモアがあり純朴。この時代の暗さを書くことより、その時代を過ごす人々の明るさを描き続けました。彼の絵の構図、またその緻密な技術の影響は海を越え、鳥山明先生に影響を与えたと言われています。また1ヶ月ごとに書かれる彼の絵に連作があり、同じ登場人物が違うシチュエーションで描かれ、これはまるでワンピースの扉絵連載のよう!(今週のワンピやばかったですね) 話をコレクションに戻しましょう。この暗い時代に人々の明るさをユーモアで持って包み込んだノーマンロックウェルが人物として明確に言及されています。それはノーマンロックウェルの絵の中に登場する人々の洋服を参照した、と言うことではなく、暗い時代に明るく時代を捉え直したその行為そのものがテーマと言っていいでしょう。つまるところそれは日常的なものであり、暗い時代を温かく捉え直す行為です。また彼の絵が時代を超え海を越え愛されたように、今回のコレクションの洋服は時代を作る洋服ではなく10年後もクローゼットに残るような洋服を目指して作られているような気がします。日常は退屈でしょう。その退屈さに少しだけ花を。過度に飾るのではなく自分だけのお気に入りを。
また、”日常”と言った時に思い出されることがあります。それはss25 “Working class theater”とaw25 “Alternative Elegance”もまたある種の日常を描いていることです。いわばこのコレクションは三部作。この3シーズンで、Bed j.w. Fordが描く日常のフォーマットを定義したかったのでしょう。着るのが怖くなるような美しさを持った洋服も作れる、というかむしろそっちが得意なブランドだと思っていますが、ここ3シーズンは人々に寄り添う優しさを持った洋服だと思います。また日常や現実というのはもっと暗かったり寂しかったり孤独だったりするものだと思いますが、今回は特に意図的に暗さを省いているように見え、”日常”をテーマにしながらとても”ファンタジー”だなと思っています。現実はもっと暗いから。この矛盾を楽しむことができれば、このコレクションはとても美しいものに見えることでしょう。ss25から登場した袖を固定するストラップ、aw25で洋服に添えられたAlternative Eleganceのタグが今回も象徴的に使用され、”日常三部作”の続き物的要素を補強します。洋服単体の話をしてみると、ミリタリーを想起されるディテール、例えばマチ付きのポケットは外から見えないように内側に配置され、カーキ色はトーンを明るくミントグリーンにされています。グルカパンツは丈を短く切りっぱなしのロングショーツのようなデザインに、革靴に至ってはキルトが付属し踵がなくサンダルやスリッパのような日常のラフさを持たせています。編み物、つまりニットやカットソーにはシルクが使われていますがカシミヤのようなヌメりを持ったシルクというよりは少しだけ着込んだコットンのような柔らかさを持ったシルクが使われています。タンクトップとTシャツ、プルオーバーニットとドライバーズニットがラインナップされているのですが、”wink”で描いたことを端的に表現しながら今後のBed j.w. Fordを占うかのようなアイテムに仕上がっています。

7/19-21
Bed j.w.Ford ss26 “wink” exhibition at RARE OF THE LOOP
11:00-20:00
お店の営業時間が20時までとなっているため20時終了となっていますが、20時に終わったためしがないのでもっと遅くまでやっていると思います。前回が混みすぎて満足にご覧いただけなかった方もいらっしゃったかと思いますので、今回は何となくふわっと枠を設けています。厳格なものではないです。
①11:00-13:00、②13:00-15:00、③15:00-17:00、④17:00-19:00、⑤19:00-21:00の5枠。各時間帯、4人くらいまでで対応できればと考えています。予約いただいた方を優先的にご案内するので、ハードルは高いけど予約してくれると非常に嬉しいし助かります。21時以降は僕らがお酒を飲み始めるかもしれませんが、それでもよければ開けているのでお気軽に連絡していただければと思います。全ては書ききれなかったけど、書ききれなかった分は店頭でお話しさせてください。
あと、今回のコレクションノートを印刷したポストカードを作りました。ブランドの香水を振りかけて渡す予定です。あと、お花も一輪渡します。ネットで洋服を買える時代に、わざわざ店頭に来てくださって、尚且つ今買えない、半年後に着る服をわざわざ見に来てくださるあなた方へ感謝とリスペクトを込めて。それでは週末お待ちしております!